沿革/創業から現在までの歩み

文明開化の波の中、芹澤商店は創業しました。

芹澤商店は、明治36年に創業しました。東京で日本初のビアガーデンがオープンし、山手線を始め東京のあちこちで電車が走り始めた年。近代日本の文明や文化がまさに開花する波の中、横浜元町の芹澤商店からのれん分けし、神戸元町の居留地近くで外国人向けに絵画や室内工芸品の商いを始めました。

神戸は慶応3年(1868年)の開港以来、国際貿易港の町として栄え、西洋文化がいち早く流入し広まりました。多くの外国人が暮らして国際色豊かな文化が花開き、洋服、靴、真珠加工、洋家具、洋菓子などの産業が形成されていきました。

昭和に入ると大丸百貨店が現在の場所に移転し、さらに賑やかになっていきました。新しい物好きだった芹澤商店の創業者は写真館を始めるほか、新たなビジネスチャンスを求めて上海などへ視察に行きました。新しい産業や文化を生む活気が神戸元町界隈にはみなぎっていました。しかし、そんな中、創業者の死が芹澤商店を襲います。

創業者の妻が店主として後を継ぎ切り盛りしましたが、第二次大戦の戦火が激しくなる中、芹澤商店もご多分に漏れず疎開を余儀なくされました。

ひとりの女性将校のカーディガンがヒントに。
やがてトータルファッションの専門店に。

終戦を迎えると芹澤商店は新たに店を構え、戦前からの外国人のお客様に支えられ、当時としては珍しい舶来の物品を販売する店として繁盛しました。店の向かいの大丸百貨店は米軍のPX(米軍内の売店)となり、多くの進駐軍兵士で賑わい、芹澤商店にも彼らの多くが来店しました。

その中に、カーディガンを格好良く肩にかけ、分厚い本を抱える米軍の女性将校がいました。彼女が持っていたのはシアーズローバックのカタログ。店主はそこに並んでいた衣類に目を見張りました。日本にはない、洒落たデザインの洋服がたくさん並んでいました。そして女性将校が着ていたものと同じカーディガンを取り寄せてもらい研究しました。

縫製、ボタンのつけ方、ボタンホールの裏打ちなどどれもが新鮮で、新しい文化の匂いがしました。そこでそのカーディガンをヒントにし、知り合いのニット屋さんに頼んでカーディガンをつくってもらいました。まだ衣類は統制経済の時代、店頭に飾る間もなく完売しました。戦争が終わり暮らしに潤いを求めていた女性の心にヒットしたのでしょう。その後もアイテムを増やしていきましたが、瞬く間に売れてしまいました。

「1枚のカーディガンが、100人1000人の女性の幸せに役立ったことは間違いない。英国羊毛の生地やオーストラリアの毛糸などを喜んで買ってくださるお客様がたくさんおられる。まさにファッションは、人の心を豊かにするもの。戦争で抑えられていた女性のおしゃれ心が、世の中平和になると共に大きくふくらんでくることは間違いない」そう確信し、芹澤商店はオリジナルなレディース専門店を目指しました。それがブティックセリワザのスタートになりました。

繊維製品の経済統制解除とともに、服地の供給ルートを確保し店を移転。新店ではインポートとともにヴォーグやセブンティーンなどの雑誌からヒントを得た、当時としては珍しい既製品のオリジナル商品をスタートさせ、雑貨もそろえて好評を博しました。当時の元町付近は、アメリカ文化の発信地であり、最先端のファッションにあふれ、元町界隈を闊歩する裕福な女性たちが最先端のお洒落を競い合っていました。その後の好景気に支えられて、ブティックセリザワはギフトとファッションブティックとして成長していきました。

昭和30年代に入ると進駐軍の引き上げとともにPXもなくなり、大丸百貨店も元の状態に戻り、街も平常の姿になってきました。「もはや戦後ではない」とのかけ声と共に、街には新しい日本のエネルギーが満ちあふれていました。

その頃の高級洋装店と言えばオーダーショップか洋品雑貨店で高級品の既製服は珍しく、ブティックセリザワはメンズも新設しトータルファッション専門店としてどこにもないオリジナルを打ち出していきました。

その後、高度経済成長とともに、神戸だけに留まらず東京、大阪にも店舗を増やし、セリザワファンを広げていきました。

質の良い上品なものを選ぶ
神戸のファッション感覚に育てられて。

戦前から神戸に異国文化が広まる一方で、神戸を含む阪神地区は、大阪の豪商たちのベッドタウンとして、あるいは別荘地や避暑地として発展し、西洋化、近代化された山の手文化が形成されていきました。それらを支える服や靴、その他の職人文化も育まれ、親子代々に渡って質が良く上品なものを大切にしながら、西洋文化によって洗練された独特のエレガンス感覚が生まれていきました。母と娘が一緒にショッピングを楽しむ姿は、神戸のファッション文化を一番良く表しているかも知れません。このマインドは、今の神戸にも連綿と受け継がれています。

流行を追うのではなく、質の良い上品なものを大切にし、トレンドをさりげなく取り入れる神戸ファッションは、誰もがあこがれとして心の奥に秘めている女性らしいファッションなのではないでしょうか。そんな神戸で、明治より親子三代にわたってファッションや文化を発信しているのがブティックセリザワです。